「他力本願」の思想

今から800年ほど前、親鸞聖人が開かれた浄土真宗は、日本で最大の仏教宗派になりました。浄土真宗を信仰する門徒の数は全国で1,150万人を超えるといわれています。その浄土真宗の最も大切な教えの一つが「他力本願」です。

 

他力本願というと、他人をあてにすること、つまり人任せにして自分は何もしない、というように誤解されている方が少なくありません。

 

他力本願の本当の意味とは、「他力」を水泳に例えて考えると、わかりやすいです。

泳ぎを知らない人が水の中に放り込まれると、怖くて身も心も固まってしまいます。そうすると、ブクブクと水底に沈んでいく。俗にいうカナヅチです。しかし人間は本来、水に浮くようになっているはずです。それにもかかわらず、沈んでしまうというのは、理にかなっていないわけです。

 

水泳を心得た人は、体をのびのびとリラックスさせますから、ごく自然に水に浮きます。これは水に体を任せたからです。要するに、水の力を信頼しているわけです。ところが、泳ぎ方を知らない人は「自分の力で泳ぐんだ」と考えますから、どうしても体に余計な力が入ってしまいます。「自力」にすがろうとするから、本当は泳げるはずなのに溺れてしまうのです。水の力を信じて身を委ねていなければ、浮くことも泳ぐこともできません。

 

水にすべてを任せることによって水に浮く。これが、「他力」であり、天の導き、力を指しているのです。